あちらこちらで ~勝手に2本立て鑑賞日記~

映画館で、テレビで、美術館で……ところかまわずその週見たものたちをひとつの感想にこじつける

響け!、ハロプロの「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL!」の歴史とユーフォニアム

 

 

2023年9月4日から9月10日までにみたもの

 

”青春”ってあっという間に過ぎ去る季節のようだけど、それは「先輩」が少し前に過ごしたもので、「後輩」たちがこれから過ごしていく時間で、いまそのなかに居る人だけのものでは決してない。今っていうのは、そうやっていろんな人の時間が折り重なってできている。

 


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『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』の舞台となる季節は、夏のコンクールが終わり3年生が引退して2年生が最上級生となって吹奏楽部を引っ張っていく、世代の変わり目。先輩が引退しているけれども卒業はしていない曖昧な状態。部長になった久美子は、アンサンブルコンテストの校内予選に際したチーム決めであぶれた部員のチームに、結局傘木希美と吉川優子ら3年生を参加させることにする。久美子は内部で問題を解決できなかったことを後ろめたく感じたようだったが、それで良いのだ。ここまでの北宇治高校吹奏楽部の歩みをみてきた人にとって、吹奏楽は”自分の力だけでなんとかする”ものではないことをよく知っている。リズムを奏でる楽器とメロディーを奏でる楽器があって、悩んでいる人とそれに手を差し伸べる人がいて、高音パートと低音パートがあって、目立つスキルで演奏全体を華やげる役割と基本に忠実なプレイで堅実に演奏を支える役割がいる。それが吹奏楽部という共同体である。

 

同じ空間にいる仲間の息づかいを読み取り、リズムとハーモニーをつくりだすことが部員一人一人のあいだで行われていることを、1つの高みを目指す流れから一旦外れたアンサンブル・コンテストへの取り組みを通して描いたのが今回の特別編だ。部長の久美子と釜屋つばめがいっしょに段差を乗り越えながらマリンバを運ぶときの、並んだり向かいあったりする緊張感は、このシリーズにおけるキャラクターどうしのコミュニケーションや演奏に通奏しているのと同じものである。

 

最後には青い空をバックに久美子とつばめによって序奏部が演奏される。先をゆくユーフォニアムのメロディとそれに寄り添うマリンバのリズムのハーモニーは、息づかいを読みあいながら高みを昇っていく彼女たちの足どりのように軽やかだった。その音は、2人だけのものでも、同じアンサンブルの8人のものでも、吹奏楽部のものでもない。楽器たちにはこれまでの部員の息が吹き込まれ受け継がれてきている。だからこそあれだけ丁寧にマリンバを運ぶ。「響け!ユーフォニアム」の音楽はどれもそんな時を超えたなのだ。

 


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さまざまな目的で人が集まる日曜日の代々木公園を抜けて、代々木体育館に着いたとき、いつものコンサートではない雰囲気を感じた。何度か参加したアンジュルムやBEYOOOOONDSの単独コンサートとも、現役メンバーが勢ぞろいするひなフェスとも違う、集まるファンたちのようす。話にしか聞いたことない「保田大明神」ののぼり、オタクのアイコンとして特別な意味を持つ「道重一筋」のピンクTシャツ。今日ここに集まっているのは、オタクの「先輩たち」なのだと確信する。Hello!Project25周年を祝うライブで、現役はもちろん25年のなかでハロプロを旅立っていった各世代のOGが出演するとなれば、その歴史を背負ったファンたちが集まるのも当たり前である。

 

代々木体育館ならでは天井からの光が遮断され、センターステージ後ろのモニターに映し出されたのは、斬新なエフェクトも奇抜な音楽もない、25年間のライブ映像を集めて繋げただけの真面目なオープニング映像。これから始まるのは楽しいコンサートというより、「記念式典」なのかもしれない。卒業後にアナウンサーに転身した紺野あさみの厳粛な声がさらにそう思わせる。

 

まず手始めに、現役のグループたちが、ハロプロを去っていったアイドルたちが歌っていた曲を歌い繋いでいく。曲は昔のものでも、はじめて目の当たりにするアンジュルムの新メンバー二人(後藤花・下井谷幸穂)やJuice=Juiceの新メンバー川嶋美楓のソロパートのフレッシュさがしっかり楽しい。ハロー!プロジェクトとは25年の間に残されてきた作品群ではなく、その歴史の上にたつ今のアイドルという存在であることに安心する。当時それらの曲を歌ったアイドルたちも、こんな風に何十年後も歌い継がれていくことは想像していなかっただろう。誰かが若いときに命を注いだものが時を越えて誰かを輝かせている。記号としての”アイドル”が背負った儚さや脆さとは真逆の厚みをもった時間が続く。

 

卒業していったメンバーたちが続々登場する。ひとくくりにOGといっても、まだ歌手として歌い続けて音楽界にいる人から芸能界すら後にした人もさまざまいる。共演したことないメンバーどうしのパフォーマンスの新しさとそれぞれがアイドルとして”復活”する懐かしさとがまじりあう。石川梨華辻希美矢口真里をテレビタレントとしてしか見たことがない私のような新しいファンにしてみれば、歌い踊る姿は現役メンバーのパフォーマンスよりも目新しい光景である。一方、スポットライトに一人ずつ照らされる鈴木愛理夏焼雅田中れいなに阿鼻叫喚する私の左前方の方や、ラララのピピピがかかったとたんに雄々しく声を上げる右後方のピンクTシャツの方からしてみれば、思い出がよみがえる瞬間だったのだろう。

 

矢口・辻と並ぶ松本わかな・豫風瑠乃、辻とステージを二人占めする島倉りか、道重さゆみの後ろで踊る田代すみれと川嶋美楓、それぞれにのしかかる歴史や思いをいまここの輝きに昇華させていく。OGたちもあのときの自分を宿して光を浴びる。”相方”の加護ちゃんの空いたところを埋めることでタンポポとして歌う念願がかなった辻ちゃんのようにここへきて新たな一歩を踏み出したOGもいる。客席からの視線も、成長の瞬間を確かめるものから再び動き出した思い出を焼き付けるものまでさまざまだ。

 

ハロプロの枠を超えて国民的に歌い継がれていく「ザ☆ピース」や「恋愛レボリューション21」が歌われるころになれば、そんな客席の思いも一つになっていたのではないだろうか。”みんなのもの”となった歌をわかちあってその空間を楽しむ。やっぱりこれはコンサートでライブであった。出演者たちは締めの挨拶で早くも5年後の30周年ライブのことを口にする。本当はいつまでも続いてほしい時間をあきらめる理由として、ちょっと先の未来に約束が欲しいのは観客たちも同じだった。

 

今からさ(GO!) 未来をつかもう 古きに学び 研究した分 向上するから

その時間はラストにオールキャストで歌われた「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL!」の歌詞のように、未来を向いたことばで幕を閉じる。ハロプロソングはいつもそうして未来をみつめる。

青春の1ページって 地球の歴史からすると どれくらいなんだろう? / ザ☆ピース

そして、この瞬間に集まった地球や宇宙の大きさに思いを馳せる。いつかほんとうに宇宙くらいハロプロが大きくなっても、こんな瞬間に帰ってきたい。そしてそのときも今日の私とその後ろの歴史の重みを感じたい。

 

 

青春のなかを駆けていってしまったはずのものでも、他の誰かに引き継がれていたり、私の内に残っていつかまた燃え上がるかもしれない。北宇治高校の吹奏楽部のみんなや、ハロー!プロジェクトのアイドルたちの青春に積み重なる時間を見ているとそうあってほしいと思う。たしかに悩み閉じこもりがちな時期ではあるけれども、けっしてひとりじゃないと信じたい。だって、

 

夢という字を 2人で書くぞ 一人よりも楽しいぞ。。。。。 / プッチモニ